「仕事は何もしなくていいよ」は天国? 障害者雇用報道から考える労働の本質
「出社しなくていいし、仕事もしなくていい。でも毎月お給料は払う。」
一見、最高の職場にも思えますが、実際には仕事が与えられないことが苦しく感じられて、健康に悪影響が生じるかもしれません。
大手企業が障害者を在宅で雇用しながら、仕事を与えなかったというニュースが報じられました。
もし報道が事実であれば、報道された情報の限りでは、主に以下の点が要注意だと思います。
まず、現在、障害者雇用促進法により、一定の従業員規模以上の企業には従業員の2.5%以上の障害者を雇用する義務(法定雇用率)があり、未達成の場合は不足する障害者雇用数に応じて1人あたり月額5万円の納付金を支払う必要があります。(なお、改正により、2026年7月から法定雇用率は2.7%以上に変更されます。)
この点、障害者雇用促進法の目的は、障害者が能力を発揮し、自立して社会参加を促進し、障害者の職業の安定を図ることだと考えられます。
障害者雇用促進法の目的からすると、障害者を雇用して法定雇用率をクリアしつつ、実際には仕事を与えないということは、障害者雇用促進法の本来の目的には合致しないと考え得ます。
第一条 この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。
【障害者の雇用の促進等に関する法律】
また、厚生労働省が定めるパワハラ防止法の指針では、「過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)」や、「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」はパワーハラスメントの一類型と定義しています。もし、報道が事実なのであれば、報道されている内容からすれば、在宅で仕事を与えないことは、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
そして、安全配慮義務の点も要注意です。
障害者の方と雇用契約を結んでいる使用者には、労働契約法上、「安全配慮義務(労働者が心身の安全を確保しつつ働けるよう配慮する義務)」があります。
仕事を与えない結果として労働者の健康が損なわれた場合の責任(安全配慮義務違反による責任)は、雇用主に発生しますので、注意が必要です。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(労働契約法)
労働の「本質」
今回の報道は、「労働とは何か」という労働の本質を問いかけていると思います。
労働でお金を稼げればいいというのではなく、仕事の実践を通じて社会と繋がり、やりがいを感じる、達成感を感じるなど自分の役割や意義を実感することだと思います。自己実現を図る行動とも言えます。
その労働の意義が全て取り上げられてしまうと、働く人の尊厳は傷つきかねません。
そのため、障害者の方を雇用した企業は、その障害者の方の能力、個性、特性に合わせて、仕事で活躍をすることができるように調整し、配慮することが必要です。
企業は、今一度、「人を雇う」ということの責任や意義を改めて見つめなおす必要があるのかもしれません。
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この記事の執筆者

弁護士松村譲(埼玉弁護士会所属)
2009年弁護士登録。埼玉県内法律事務所にてアソシエイト弁護士を経験後2010年はるか法律事務所に入所。労務を含む企業法務全般や一般民事事件の解決に従事。特に労働事件の取り扱い経験が多い。埼玉弁護士会では労働問題対策委員会委員長を務めた。また、2015年から2020年まで駒澤大学法学部非常勤講師を務めた。2019年東証一部上場企業の企業内弁護士となり、企業法務に従事した後、2023年はるか法律事務所に復帰し、現在、個人や企業が抱える法律問題(労働法務その他)等の解決に日々尽力している。
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