試用期間について注意すべき事項

従業員の採用にあたって、入社後に数か月程度を試用期間として設定して、入社して試用期間が満了した後に、会社が本採用を決定するということがあります。

今回は、本採用の拒否は自由にできるのかといった注意すべき点について解説していきたいと思います。

 そもそも、試用期間はどのような性質のものなのでしょうか。

 三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日判決)では、最高裁判所は、次のように指摘をしています。 

「解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他上告人のいわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであつて、今日における雇傭の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。」

三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日判決)

 つまり、試用期間は、採用に際して、応募者の適格性の有無について調査を行ったり、判定する資料を十分に収集することができないので、採用後に調査、観察を行って、最終的な採否決定をする必要がある。試用期間は、その調査、観察のための期間という位置づけになります。

 そのため、試用期間中の労働契約は、試用期間中に適格性を調査観察して、最終的な採否決定を行うことを留保された労働契約ということになると思われます。 

 試用期間の長さは、特に法律上の規制はありませんが、あまりに長いものは適正ではありませんので、長く設定したい場合でも6か月までにするのが良いと思われます。

 三菱樹脂事件では、本採用拒否は、試用期間以外での解雇と比べて広い範囲において解雇が認められるとしています。

 もっとも、本採用拒否がどのような場合にでも自由にすることができるわけではありません。

 本採用拒否については、労働契約法第16条の解雇に対する規制が適用になります。 

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法

 三菱樹脂事件の判決でも、試用期間中の留保解約権の行使は、採用決定後の調査の結果によって、または試用中の勤務状態等により当初知ることができず、また知ることができないような事実を知ったときに、解雇することが客観的に相当である場合に許される旨判示しています。

 「右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。
 しかしながら、前記のように法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇傭契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」

三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日判決)

 

 試用期間は、従業員の適格性を調査、観察する期間であるため、試用期間の満了を待って本採用について判断するのが本来的な流れになります。

 そのため、調査、観察する期間である試用期間の途中で解雇をすることは、調査観察期間の途中で調査観察を終了させるものになります。

 試用期間の満了まで待ってもらえば、例えば従業員がその間で能力の向上を図り、その結果として本採用がなされたかもしれません。

 そのため、裁判では、試用期間の満了を待って本採用拒否した場合に比べて、試用期間の途中での解雇の有効性は厳しく判断される可能性があります、試用期間の途中で解雇をしようとする場合には慎重に対応を検討する必要があります。  

 試用期間中や本採用拒否あたって注意が必要なのは、解雇が試用期間開始日から14日が経過した後になされた場合には、労働基準法第20条により、30日前に解雇の予告をする義務が発生し、即時解雇をする場合には解雇予告手当を支払う義務が発生する点です。

 即時解雇をした場合には、30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払うことを忘れないようにすることは要注意です。

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する

労働基準法

第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者

労働基準法

弁護士松村譲(埼玉弁護士会所属)

2009年弁護士登録。埼玉県内法律事務所にてアソシエイト弁護士を経験後2010年はるか法律事務所に入所。労務を含む企業法務全般や一般民事事件の解決に従事。特に労働事件の取り扱い経験が多い。埼玉弁護士会では労働問題対策委員会委員長を務めた。また、2015年から2020年まで駒澤大学法学部非常勤講師を務めた。2019年東証一部上場企業の企業内弁護士となり、企業法務に従事した後、2023年はるか法律事務所に復帰し、現在、個人や企業が抱える法律問題(労働法務その他)等の解決に日々尽力している。


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