健康診断を実施する企業の義務について

企業(使用者)は、雇用する労働者に対して、健康診断を受けさせる義務等があります。

本記事では、健康診断に関して、企業が負う義務について解説したいと思います。

健康診断の種類

健康診断は、2種類あります。

一般健康診断と特殊健康診断です。

本記事では、多くの企業に関係する一般健康診断について解説していきます。

①雇い入れ時の健康診断(労働安全衛生規則43条)

 安全衛生法第66条第1項により、事業者は、雇用する労働者に対して医師による健康診断を行わなければならないとされています。

 そして、労働安全衛生規則43条により、常時使用する労働者を雇い入れる際に健康診断を実施しなければならないとされています。

 なお、雇い入れ前3か月以内に医師による健康診断を受けた労働者については、その健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出した際には、実施済みの健康診断の項目に相当する健康診断項目については健康診断の実施義務が免除されます(労働安全衛生規則43条但し書き)

 雇い入れに際して実施する健康診断項目は次の内容です(安全衛生法規則43条1号~11号)。

・既往歴及び業務歴の調査
・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
・身長、体重、腹囲、視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第一項第三号において同じ。)の検査
・胸部エックス線検査
・血圧の測定
・血色素量及び赤血球数の検査(次条第一項第六号において「貧血検査」という。)
・血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査(次条第一項第七号において「肝機能検査」という。)
・低比重リポ蛋たん白コレステロール(LDLコレステロール)、高比重リポ蛋たん白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(次条第一項第八号において「血中脂質検査」という。)
・血糖検査
・尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(次条第一項第十号において「尿検査」という。)
・心電図検査

②定期健康診断(労働安全衛生規則44条)

  常時使用する労働者について1年以内に1回、定期健康診断を実施しなければなりません。

 健康診断項目は次の内容です(労働安全衛生規則44条1項1号~11号) 

  •  既往歴及び業務歴の調査
  •  自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  •  身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  •  胸部エックス線検査及び喀痰かくたん検査
  •  血圧の測定
  •  貧血検査
  •  肝機能検査
  •  血中脂質検査
  •  血糖検査
  •  尿検査
  •  心電図検査

 なお、定期健康診断の健康診断項目については、厚生労働省告示に基づき、個々の労働者ごとに、医師が必要でないと認めたときはその一部を省略することが可能です。 

 ③特定業務従事者の健康診断(労働安全衛生規則45条)

 特定業務(深夜業その他)に常時従事する労働者について、特定業務への配置替えの時・6か月以内に一回健康診断を実施しなければなりません。

※特定業務(労働安全衛生規則13条1項3号)

  • 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  • 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  • ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
  • 異常気圧下における業務
  • さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
  • 重量物の取扱い等重激な業務
  • ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  • 坑内における業務
  • 深夜業を含む業務
  • 水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  • 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
  • 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
  • その他厚生労働大臣が定める業務

④海外派遣労働者の健康診断(労働安全衛生規則45条の2)

 海外に6か月以上派遣する労働者について、海外に6か月以上派遣する時・帰国後国内業務につかせる時に健康診断を実施しなければなりません。

⑤給食従業員の検便(労働安全衛生規則47条)

 事業に付属する食堂または炊事場の給食業務に従事する労働者について、雇い入れの時、配置換えの時に検便による健康診断を実施しなければなりません。

⑥自発的健康診断(労働安全衛生規則50条の2)

 深夜業に従事する労働者は、会社が実施する健康診断の前であっても、自発的に健康診断を受け、事業者に提出することができます。

 深夜業に従事する労働者は、健康を害する可能性があり、健康に不安を感じる労働者が早期に健康診断を受け、事業者に提出することを認めたものです。

 具体的な条件は、つぎのとおりです。

 自発的健康診断を受けた日の前6か月を平均して1か月あたり4回以上、午後10時から午前5時までの間の業務(深夜業)に従事した労働者は、自ら受けた医師による健康診断の結果を証明する書面を健康診断を受けた日から3か月以内であれば、事業者に提出することができます(労働安全衛生規則50条の3)。

 事業者に健康診断の結果を証明する書面が提出された場合には、

ⅰ事業者は、自発的健康診断の結果について医師から意見を聴取して、

ⅱ必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか

ⅲ作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない

  とされています(労働安全衛生法66条の5参照)。

一般健康診断の費用負担

 一般健康診断に要する費用は、事業主が負担します。健康診断を実施する義務が課せられていることからすれば、事業主が負担するのが当然とされています。

 ただし、労働者自らが選択した医師等による健康診断を受診した費用については会社は負担を要しないと考えられています。

 自発的健康診断の費用について誰が負担するのか明確にした資料、文献は見当たりませんが、会社が実施する健康診断ではないことからすれば、労働者が負担すると解釈するのが自然ではないかと考えます(私見)。

この記事の執筆者

弁護士松村譲(埼玉弁護士会所属)

2009年弁護士登録。埼玉県内法律事務所にてアソシエイト弁護士を経験後2010年はるか法律事務所に入所。労務を含む企業法務全般や一般民事事件の解決に従事。特に労働事件の取り扱い経験が多い。埼玉弁護士会では労働問題対策委員会委員長を務めた。また、2015年から2020年まで駒澤大学法学部非常勤講師を務めた。2019年東証一部上場企業の企業内弁護士となり、企業法務に従事した後、2023年はるか法律事務所に復帰し、現在、企業が抱える法律問題(労働法務その他)等の解決に日々尽力している。

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