解雇の種類
本記事では、従業員への解雇の種類について解説していきます。
解雇とは
解雇とは、使用者から労働者に対する労働契約の一方的な解約を意味します。
解雇にはいくつか種類がありますが、主に以下の3種類が挙げられます。
普通解雇
懲戒処分として行う解雇ではなく、労働契約の解約としての解雇を意味します。
一般的には、従業員の勤務態度が悪く改善の余地がない、勤務成績が悪く改善の余地がないなどの場合には、普通解雇を選択することが多いと思います。
普通解雇は自由にできるか?
では、使用者側は、普通解雇を自由にできるかというと、実際にはそうではありません。
労働契約法16条においては、次のように定めており、解雇に客観的に合理的な理由があること、解雇が社会通念上相当であることが必要であるとされています。
労働契約法
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そのため、普通解雇は、どのような場合でも自由にできるというわけではなく、客観的に合理的な理由があり、社会通念からしても相当だ、もっともだと考えられる場合にのみ有効とされます。
上記の要件をクリアしているか否かは、最終的には裁判所が判断することになります。
解雇が法律上禁止されている場合
また、法律上解雇が禁止とされている場合が定められています。以下に主な例を記載します。(ほかにも法令で解雇が禁止されている場合があります。)
①労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間(労働基準法19条1項本文)
②産前産後の女性が労働基準法65条の規定によって休業する期間及びその後30日間(労働基準法19条1項本文)
③労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
④労働基準法違反の事実を行政官庁又は労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条)
⑤労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法)
労働基準法
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
第104条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
第3条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
男女雇用機会均等法
第6条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三 労働者の職種及び雇用形態の変更
四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
使用者側としては、解雇が法律上禁止されている場合にあたらないか、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と言えるかを検討して解雇するかどうかを決めなければなりません。
そのため、普通解雇を検討された場合には、弁護士に相談をすることをお勧めします。
整理解雇
使用者の財務が悪化したこと等により、使用者の都合で雇用する従業員を削減する必要から行う解雇を意味します。いわゆるリストラがこれにあたります。
労働者側には何も落ち度がなく、単に使用者側の都合により解雇をすることから、整理解雇が有効になるには、厳格な要件を満たす必要があります。
使用者側としては、財務が悪化した場合でも自由に整理解雇をすることができるわけではないことに注意が必要です。
どのような場合に整理解雇が有効になるか
過去の裁判例を見ると、次の要件(「要素」とするものもあります。)を満たした場合に整理解雇が有効になると考えられます。
① 人員削減の必要性があること
② 解雇回避の努力をしたこと
③ 人選の合理性があること
④ 手続の相当性
そのため、使用者としては、①~④の要件(要素)を満たすべく十分に時間をかけて丁寧に解雇の手続きを履践していく必要があります。
特に、
②の要件では、解雇回避の努力として、例えば新規採用の中止や役員報酬のカットや希望退職の募集をすることなどが挙げられます。
③の要件では、できるだけ客観的な基準を設け、合理的な基準を採用することが必要です。
④の要件では、労働者や労働組合等と十分に協議や説明を行い、使用者の状況を理解していただき、整理解雇の必要性を理解していただくことなどが必要です。
そのため、整理解雇を検討される際には、弁護士に相談をすることをお勧めします。
懲戒解雇
労働者に対する懲戒処分として行う解雇を意味します。
懲戒処分として行うことから、懲戒解雇は労働者にとって、非常に重い解雇類型です。
懲戒解雇は、通常、懲戒処分の類型のうち、一番重い懲戒処分です。
懲戒解雇が有効になるにはどうしたらいいか
使用者側が、懲戒解雇をする際には、より厳格な要件をクリアしなければなりません。
① 懲戒解雇が、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえること(労働契約法15条)
② 懲戒解雇が、就業規則に定める手続きに則ってされていること
③ 懲戒解雇について、懲戒事由等必要な事項が就業規則等に定められていること(根拠規定があること)
労働契約法の規定
上記の①についてですが、労働契約法には、次のとおり、懲戒の有効要件が書かれています。
労働契約法
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒解雇には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と言えるかどうかが問題になります。
ここで、社会通念上相当と言えるかという点は、懲戒の対象となった行為内容から処分が重すぎないか、他の労働者に対する処分と比較して重すぎないかなどが問題となります。
適正な手続
上記②についてですが、手続をきちんと踏んで懲戒解雇を出しているかどうかが問題になります。
例えば、就業規則において、懲戒解雇に先立って、懲戒委員会や懲罰委員会といった名称の委員会を開催し、懲戒解雇が妥当かどうかを検討するなどと記載があった場合には、懲戒委員会や懲罰委員会を開催しなければなりません。
また、よくある手続きとして、労働者に弁明の機会を与えるという手続きがあります。
弁明の機会を与えることが就業規則に定められている場合には、必ず、弁明の機会を与える必要があります。
なお、就業規則に弁明の機会を与えると記載されていない場合でも、懲戒解雇をする際には、やはり弁明の機会を付与する方が無難です。
使用者側が、弁明の機会を全く与えず、懲戒解雇をした場合には、裁判所が懲戒解雇が有効かを判断する際に使用者にとって不利になる可能性があります。
根拠規定
上記③についてですが、懲戒解雇を行う際には、懲戒事由等懲戒解雇の根拠規定が必要になります。
懲戒解雇の根拠となる規定がない場合には、懲戒解雇は無効となります。
問題となりやすいのが、就業規則に懲戒解雇の事由等根拠規定がある場合に、就業規則が労働者に周知されていたか否かという点です。
周知をしていなかった場合には、就業規則が効力を持たないとされる可能性がありますので、要注意です。
まとめ
以上見てきましたように、解雇には主に普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。
解雇は、使用者側が、感情的になって勢いで言い渡してしまうと、後で争われた際に解雇が無効となるリスクがあります。
そのため、解雇を検討される際には、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
この記事の執筆者
弁護士松村譲(埼玉弁護士会所属)
2009年弁護士登録。埼玉県内法律事務所にてアソシエイト弁護士を経験後2010年はるか法律事務所に入所。労務を含む企業法務全般や一般民事事件の解決に従事。特に労働事件の取り扱い経験が多い。埼玉弁護士会では労働問題対策委員会委員長を務めた。また、2015年から2020年まで駒澤大学法学部非常勤講師を務めた。2019年東証一部上場企業の企業内弁護士となり、企業法務に従事した後、2023年はるか法律事務所に復帰し、現在、個人や企業が抱える法律問題(労働法務その他)等の解決に日々尽力している。
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