労働審判を起こされたらどうする?

本記事では、労働事件の裁判制度の一つである労働審判について解説をします。

労働審判とは

労働審判は、労働者と使用者との間の労働事件について、労働審判委員会(裁判官と労働審判委員2名)が、迅速に審理をして、調停(和解)を勧め、調停で解決ができない場合に、審判をするという手続きです。

労働審判の特徴

 原則3回以内で審理が終結し、調停(和解)が成立しない場合には、労働審判委員会によって審判が下されます。

 そして、労働審判は、通常の民事訴訟とは違い、第1回から実質的な審理がスタートします。   

労働審判法

第15条 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。

 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。

 労働審判は、労働審判法により非公開とされているため、通常の訴訟のように公開の法廷ではなく、裁判所内の会議室のような非公開の場所で実施します。 

労働審判法 

第16条 労働審判手続は、公開しない。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。

 期日では、裁判官と労働審判員が労働審判を進行していきます。

 証人尋問の期日は特別に設定されませんので、事情を知る人に証言をしてもらいたいときは、期日に同行する必要があります。

 期日では、審理の中で、随時裁判官や労働審判員から質問を受け、本人や他の出席者に事実の確認等がなされることがあります。

 また、随時、出席者が発言することもあり得ます。 

 労働審判委員会は、通常、まず調停(和解)を勧めます。そして、調停がどうしても成立しない場合に、審判(判決類似のもの)を下します。

 審判の内容は、当事者の紛争の状況や労働審判の経過を踏まえ、決定されます。

 労働審判委員会は、審判の内容も柔軟に定めることが可能です。そのため、場合によっては、和解条項のような審判内容になることもありえます。

 審判について適法に異議がなければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有することになります。

労働審判法
第20条 労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。
2 労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。

 

労働審判を申し立てられた場合に気を付けるべきこと

 通常の訴訟では、第1回期日について、被告は出頭をしなくても答弁書を出すだけで済ますこともあり得ます。

 しかし、労働審判では、第1回期日から実質的な審理が本格的にスタートします。

 第1回期日で審理が実質的に終了するケースもあります。

 そのため、裁判所から労働審判の申立書が送付されてきたら、速やかに準備を進める必要があります。

 労働審判の代理人を務めることができるのは、原則として弁護士ですので、弁護士に速やかに相談をすることをお勧めします。

 そして、第1回期日から出頭する必要があります。

 労働審判では、第1回から調停の話し合いが進むことがありますので、調停を成立させるかどうかを判断することができる権限を有する方が出頭することが重要です。

 中小企業の場合には、多くは代表者の方が出頭すると考えられます。

 また、会社の主張を裏付ける証言をする方がおられれば、裁判所に申し出て第1回期日に同行する必要があります。

 調停が成立せず、労働審判が出された場合には、その内容を確認して、異議を出すか検討をする必要があります。

 もし、期間内に適法に異議を出さないと労働審判が訴訟上の和解と同一の効力を有することになり、強制執行が可能となります。

 適法に異議を出した場合には、労働審判の効力が失われ、通常訴訟に移行します。

 そのため、労働審判の内容を告知された後、速やかに異議を出すべきか否かを検討することが重要です。

労働審判法

第21条 当事者は、労働審判に対し、前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は、その効力を失う。
4 適法な異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

 

第22条 労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合において、当該請求について民事訴訟法第一編第二章第一節の規定により日本の裁判所が管轄権を有しないときは、提起があったものとみなされた訴えを却下するものとする。

まとめ

以上のように、労働審判は、迅速かつ柔軟な審理がなされる労働裁判の類型です。

そのため、労働審判を申立てられた会社は、労働審判に対して迅速に対応することが必要になります。

労働審判に対応するには、専門的知識や労働審判への対応の経験を有する弁護士に速やかにご相談ください。

この記事の執筆者

弁護士松村譲(埼玉弁護士会所属)

2009年弁護士登録。埼玉県内法律事務所にてアソシエイト弁護士を経験後2010年はるか法律事務所に入所。労務を含む企業法務全般や一般民事事件の解決に従事。特に労働事件の取り扱い経験が多い。埼玉弁護士会では労働問題対策委員会委員長を務めた。また、2015年から2020年まで駒澤大学法学部非常勤講師を務めた。2019年東証一部上場企業の企業内弁護士となり、企業法務に従事した後、2023年はるか法律事務所に復帰し、現在、個人や企業が抱える法律問題(労働法務その他)等の解決に日々尽力している。

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