パワーハラスメント

本記事では、パワーハラスメント(いわゆる「パワハラ」)について解説します。

パワーハラスメントとは

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」30条の2によれば、

ものがパワーハラスメントであるとされています。

 つまり、例えば上司と部下といった有利な力関係を背景として、例えば、部下への指導の範囲を超えた言動により、部下の就業環境が不快なものとなって就業するうえで障害となってしまうような場合をいいます。

パワハラの類型

厚生労働省は、パワーハラスメントについて代表的な例を6つ挙げています。

「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」参照

身体的な攻撃(暴行、傷害)

物理的な暴行や傷害を意味します。殴打や蹴ること物を投げることななどが想定されます。

パワーハラスメントの類型の中で一番強いものになると思います。

刑事罰の適用も想定される類型です。

精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言)

  • 人格を否定するような言動
  • 外国人であることや特定の国、地域にルーツがあることなどについての侮辱的な言動
  • 性的指向・性自認に関する侮辱的な言動
  • 必要以上に長時間の厳しい叱責を行うこと
  • 脅迫的な言動を行うこと
  • 名誉を傷つける言動を行うこと
  • 他の労働者の前で大声で威圧的な叱責を繰り返し行う

などが想定されます。

人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視)

就業場所をほかの労働者から隔離する

無視をして、仲間から外し、職場で孤立させることなどです。

過大な要求

  • 業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
  • 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレバルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。
  • 長時間にわたる肉体的苦痛を生じる過酷な環境で、勤務に直接関係のない作業を命ずる

などが想定されます。

過小な要求

  • 管理職である労働者を退職させるため、誰でもできる業務を行わせる
  • 気に入らない労働者に対していやがらせのために仕事を与えない

などが想定されます。

個の侵害

  • 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をする
  • 労働者の性的指向、性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について了解を得ずにほかの労働者に暴露する。

などが想定されます。

パワハラが起こった場合の使用者の責任

では、パワハラが起こってしまった場合に、使用者は、どのような責任を負うのかについて解説します。

使用者自身がパワハラを行ったと評価される場合

 使用者自身が、例えば会社の方針として、リストラを計画し、労働者を退職させるべく、脅迫等を行って退職を求める場合やいわゆる追い出し部屋を設置し、業務を与えず、組織的に退職に追い込む場合等が想定されます。

 これらの場合には、使用者自身の不法行為(民法709条)として、損害賠償責任を負うことがあり得ます。

使用者の役職員が別の労働者にパワハラをした場合

 使用者の役職員が別の労働者にパワハラした場合には、まず、そのパワハラをした役職員が民法709条に基づく損害賠償責任を負います。

 次に、使用者の責任が問題になりますが、使用者は労働者の行為について使用者責任を負いますので、民法715条に基づく損害賠償責任を負います。

 また、使用者は、労働契約に付随する義務として、労働者に対して安全配慮義務等の義務を負います。そのため、労働者に対する安全配慮義務違反があるとされた場合には、債務不履行として、損害賠償責任を負います。

賠償額について

 パワハラにより、労働者が精神的損害を被った場合には、慰謝料の請求がなされることが想定されます。

 慰謝料の金額は、数万円程度から数百万円という範囲で認められることが多いと思われます。

 慰謝料は、継続性や悪質性、暴力を伴うものかなどによって金額の変動がみられます。

 もし、パワハラにより労働者の方がお亡くなりになった場合には、遺族が行う損害賠償請求の項目は①死亡慰謝料②逸失利益④葬儀費用⑤ご遺族固有の慰謝料等といった多岐にわたるものが想定されます。

 特に①死亡慰謝料や②逸失利益は高額になる可能性があります。

 ①死亡慰謝料は、お亡くなりになったことについての慰謝料です。1000万円以上が裁判で認められるケースは稀ではありません。

 ②逸失利益は、労働者が生きて労働できていれば稼げたはずの金銭を算定するものです。そのため、年齢が若く、年収が高い労働者であればあるほど金額が高く算定されます。

 例えば、名古屋地方裁判所平成26年1月15日判決(メイコウアドヴァンス事件)では、死亡当時52歳、年収365万円余の労働者のケースで、逸失利益として2655万円余が認められています。また、死亡慰謝料として、2800万円という高額な慰謝料が認められています。

 そのため、パワハラによって労働者の方がお亡くなりになると企業は高額な賠償金の支払いが必要になることも想定できます。

 なお、高額な損害賠償責任が発生すると、賠償金を支払う体力がないという企業であれば、保険会社が発売している保険への加入を検討することもあり得ると思います。

 まとめ 

 パワーハラスメントは、職場の環境を害するものですから、使用者としてはパワーハラスメントの根絶に向けた努力を行う必要があります。もし、パワハラの根絶がなされれば、職場環境が改善し、離職による人材の流出を防止することや労働者の募集をやりやすくなることも想定でき、結果として企業の経営にプラスになると思われます。

 また、企業の法的責任の面で言っても、パワーハラスメントを放置すると、結果として使用者も高額な賠償責任を負う可能性がありますので、労働施策総合推進法等の法律によって求められているから形式だけ整えるという対応ではなく、日々パワハラ問題の解消に真剣に取り組む必要があるといえます。



  

この記事の執筆者

弁護士松村譲(埼玉弁護士会所属)

2009年弁護士登録。埼玉県内法律事務所にてアソシエイト弁護士を経験後2010年はるか法律事務所に入所。労務を含む企業法務全般や一般民事事件の解決に従事。特に労働事件の取り扱い経験が多い。埼玉弁護士会では労働問題対策委員会委員長を務めた。また、2015年から2020年まで駒澤大学法学部非常勤講師を務めた。2019年東証一部上場企業の企業内弁護士となり、企業法務に従事した後、2023年はるか法律事務所に復帰し、現在、個人や企業が抱える法律問題(労働法務その他)等の解決に日々尽力している。

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